「親が死んだだけで請求書」——相続税の不条理

08/07/2026 23:12 — カテゴリ: コラム

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「親が亡くなっただけで、なぜ請求書が届くのか」――先日の国会質疑で、塩入さやか議員が財務大臣に投げかけたこの問いが話題になりました。相続税を払うために、住み慣れた家を売る。先祖代々の土地を手放す。これは一部の富裕層だけの話ではなく、都市部に持ち家があるごく普通のご家庭にも、すでに現実として起きています。

相続の相談を受けていると、いちばん多い誤解があります。「うちは大した資産もないから、相続税なんて関係ない」というものです。ところが、東京23区に一戸建てやマンションを一つ持っているだけで、評価額が基礎控除を軽々と超えてしまう時代になりました。空き家を売るときの3000万円控除に期限があるのと同じで、相続もまた「知らなかった」では済まされない、期限と現金の問題なのです。



「その相続税を払うために自宅を売る」という不条理

国会でのやり取りは、いまの相続税が抱える矛盾をそのまま映し出していました。相続税はもともと明治38年、日露戦争の戦費調達を背景に生まれた税です。それが戦後、資産の再分配や格差の固定化防止を目的とする恒久的な制度として位置づけられました。

問題は、その課税対象がじわじわと広がってきたことです。平成25年の改正で基礎控除が「5000万円+1000万円×法定相続人」から「3000万円+600万円×法定相続人」へと大きく引き下げられました。その結果、申告件数は改正前の約5万件から16万件超へ、課税割合も4%台から10%台へと跳ね上がっています。亡くなった約160万人のうち、およそ16.7万件が課税対象。これを「一般家庭には及んでいない」と言い切れるのか、というのが議員の追及の核心でした。

政府側の答弁は、居住用宅地の評価を80%減額する小規模宅地等の特例などを挙げつつ、「再分配機能をどの程度発揮させるべきかという視点で考えるべき課題」というものでした。かみ合わないまま、議員はこう言い切ります。すでに所得税も消費税も払い終えたお金で築いた財産に、親が亡くなった瞬間、また課税される。これは二重課税ではないか、と。

引用:Youtube「私たちの政治」チャンネルより


財産が「負債」に変わる瞬間

この不条理が誰の身にも起こりうることを、痛感させる例があります。司会者のみのもんたさん、そして俳優の中山美穂さん――報じられているところによれば、いずれもご遺族が相続放棄を選んだケースです。故・中山美穂さんについては、およそ20億円とされる遺産の相続を、ご子息が放棄したことが話題になりました。その理由は「11億円ともいわれる相続税を、10ヶ月以内に現金で納められなかったから」と見られています。

相続資産が20億円なら、最高税率55%が効いて、相続税額はおよそ11億円。手元に11億円の現金がなければ、受け継ぐはずの財産が、そのままとんでもない借金に姿を変えてしまう。相続税は原則として「金銭による一括納付」だからです。


なぜ現金が足りなくなるのか

カラクリは資産の「中身」にあります。たとえば20億円の内訳が、現金・預貯金2億円、不動産15億円、著作権使用料(印税)3億円だとします。すぐに用意できる金銭は預貯金の2億円だけ。相続税11億円に対して、9億円も足りません。


相続財産(総額)—————————— 20億円

うち 現金・預貯金 —————————— 2億円

うち 不動産 —————————— 15億円

うち 印税(著作権)—————————— 3億円

相続税額(20億円×55%)—————————— 約11億円

すぐ払える金銭との差額 —————————— ▲9億円


印税のように「まだ手元に入りきっていない将来の収入」にも相続税評価はかかります。不動産は売らなければ現金になりません。分割払いにあたる「延納」を選んでも、今度は利子税がのしかかります。先の例なら不動産の割合が75%になるため、利子税だけで年間およそ600万円(15億円×0.4%)の負担増。時間を稼ぐこと自体にコストがかかるのです。

これは有名人だけの物語ではありません。金額の桁が違うだけで、「不動産は多いが現金は少ない」という資産構成は、日本のごく一般的なご家庭とまったく同じ形をしています。

みのもんたさんのケースからみえてくる相続トラブルの実態はこちらの特集記事で、中山美穂さんのケースを踏まえた相続税対策の考え方はこちらの特集記事で、それぞれ詳しく解説しています。あわせてご覧ください。



「王道の節税」も、もう塞がれつつある

かつては、時価と相続税評価額の差を利用した「タワーマンション節税」が有効とされていました。1億円で買ったタワマンが相続税評価では3000万円程度――この乖離を使って評価額を圧縮する手法です。

しかし国税庁はこの抜け道を塞ぎにきています。評価額が著しく不適当な場合に取得価額をもとに評価し直す「通達6項」の発動に加え、令和6年からはタワマン評価に「補正率」が導入され、評価額を時価の6割程度まで引き上げる制度が始まりました。国内で完結する節税策は、年々効きにくくなっているのが実情です。



視点を「国内」から「海外」へ移すという選択肢

ここで、国会質疑のもう一つの論点を思い出してください。議員は「日本人が相続税の納税資金づくりのために土地や会社を手放す一方で、相続税のない国の投資家がそれを買い取っていく」という構造を問題提起しました。中国・香港・シンガポールなどには、そもそも相続税が存在しません。納税資金を用意する必要がない彼らは、時間的にも資金的にも有利な立場で、日本の資産を取得できてしまう。

この構造を裏返すと、一つの合理的な発想が見えてきます。日本人であっても、税制の異なる国に資産運用や事業の「拠点」を持てるとしたら――という発想です。


フィリピン現地法人という器

フィリピンは、日本人が100%出資のオーナーとして現地法人を設立できる数少ない国の一つです(業種による制限はあります)。相続・贈与・キャピタルゲインにかかる税率が一律6%と低く、法人を通じて株式・不動産・債券などへグローバルに分散投資ができます。日本の不動産を保有し続けることも可能です。

ポイントは、「個人の資産」を「法人の資産」に組み替えるという考え方にあります。個人がそのまま持つ財産は、相続が起きるたびに日本の相続税の対象になります。一方、法人が保有する資産は、その株式を承継・譲渡していくという形で、世代を超えた引き継ぎを設計できます。器を変えることで、引き継ぎ方の選択肢そのものが広がるのです。

ここは、はっきりさせておきます。

永住権や海外口座を使って資産を「隠す」ことは、節税ではなく脱税であり、犯罪です。また、日本の居住者である限り、海外で得た所得にも日本の納税義務が生じます。日本国内にある財産を相続する場合は、国籍や居住地を問わず日本の相続税がかかります。

だからこそ意味を持つのが、「隠す」のではなく「合法的な器(法人)を通じて、正しく申告しながら経済活動の拠点を持つ」という設計です。日本に住む人が合法的に取りうる道は、資産隠しではなく、この一点にあります。


フィリピン法人の「現実」も知っておく

ただし、いい面ばかりではありません。ここを正直にお伝えするのが私たちの役割です。現地法人は、日本とは異なるルールが多く、想像以上に維持コストがかかります。毎月の税務申告が必須で、現地の顧問税理士は欠かせません。決算にはCPA(公認会計士)の監査証明が要り、秘書役・財務役は現地の人材を雇用する必要があります。ペーパーカンパニーは原則として認められません。設立にも運営にも、経験のあるプロの伴走が前提になる世界です。


設立にかかる期間の目安 —————————— 最短2〜6ヶ月

初年度コストの目安 —————————— 550万円前後

次年度以降の維持コスト目安 —————————— 年100万円前後



「手軽なタックスヘイブン」を期待すると、確実に裏切られます。逆に言えば、実体を伴った法人をきちんと運営できる方にとっては、シンガポールや香港よりも初期・維持コストを抑えながら、税制メリットのある拠点を持てるということでもあります。



相続は「起きてから」では遅い

相続税の怖さは、税率の高さそのものよりも、「10ヶ月以内に、現金で、一括で」という条件にあります。財産があるのに現金がない。だから売り急ぐ。だから足元を見られる。中山美穂さんやみのもんたさんのケースが他人事に見えないのは、規模こそ違え、多くのご家庭が同じ資産構成を抱えているからです。

私たち株式会社バリュー・アップHDは、日本国内の相続・不動産の窓口機能に加えて、フィリピン現地法人の設立・運営を、日本とフィリピンの両国からサポートしています。現地の弁護士・会計士とのネットワークを持ち、設立後の毎月の申告・決算まで並走できる体制を整えています。

海外に器を持つべきかどうか、そもそも自分の家に相続税がいくらかかるのか――その最初の一歩は、現状を正しく知ることからです。生前贈与にせよ法人設立にせよ、対策には準備期間が要ります。動けるうちに動く。それが、大切な人を「相続放棄」や「犯罪すれすれの資金繰り」に追い込まないための、いちばん確実な備えです。


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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資・節税手法を推奨・保証するものではありません。税務上の取扱いは個別の事情や制度改正により変わります。相続・税務に関する最終的な判断は、必ず税理士・会計士など専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。記事中の著名人に関する記述は報道されている内容に基づくものです。

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